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蜘蛛の話



進むべき道を




 蜘蛛の話をしよう。
 普段、なるたけ蜘蛛を殺さないようにしている。といっても、襲い掛かられれば振り払うし依頼を受ければ倒しもする。ラゴデッサは別だ。あれはダニの仲間だ。
 とりたてて蜘蛛が好きというわけではない。
 エリンに移るより以前、住家の窓に巣を張られることがあった。平素であれば棒に巻いて巣を破ることに迷いのひとつも浮かばなんだが、気紛れに、そのままにしておいてやろうと思ったのだ。窓を開くのにすこしばかりの不自由をするだけである。もの考えぬ蜘蛛とて、処を失えば辛かろう。
 そうして巣を放っておいたら、翌朝蜘蛛は姿を消していた。見逃されたとはいえ、やはり人の目があると棲みづらいものか。ものを考えぬというのは誤りかもしれぬ、などと考えていると、夕方に一通、電話があった。久しく会わぬ知人からであった。
 どうやら掃除をしていたらしい。知人は使わなくなった所持品のひとつに、むかし私が欲しがった物があったことを覚えていて、もう使わないから良ければ引き取らないかと持ちかけてきてくれたのだった。実のところ、私自身はそのことを半ば忘れていて、知人が話を切り出して漸く思い出したのだが、思い出してしまうと現金なもので、くれるならいただこうと私は直ちに承った。
 取引話の後は近況を語り合った。近況から遡り、昔の話。これからの話。冷え凝った交友は隔てなく話せるまでに回復し、いつかの再開を約束して私は電話を切った。
 受話器を下に置いた私は、主のいなくなった蛛網を眺め、これは蜘蛛が持ってきてくれた縁かも知れぬと思い、その日から私は蜘蛛に対して消極的になった。実際の偶然必然は問題ではなく、蜘蛛を助けたから良い報いが来たのだと、つまり担げる縁起は担いでおこうと、そう思うことにしたに過ぎない。
 ところで、ミレシアンは生き物をよく殺す。腹を満たすためではなく、生業というわけでもない。己の強さの糧とするために生き物を殺める。世間では経験値などと称されるものである。私のいたところには、ジャイナという、不殺に生き甲斐を得る教えがあったが、とても彼らのようには生きられないし、またその気もおきはしないだろう。業の深いことである。
 ならせめて、一つの種ぐらいは、意図して見逃してやろう、生きる手伝いのひとつでもしてやろう。どこまでいっても自分本位な話ではある。が、犍陀多の話もある。なに、犍陀多を知らない。昔、芥川という物書きが――
 魔法学校のロビーで、その様なことを私は友人に話していた。




 ――蜘蛛がすきなんだね
 友人は笑った。私は先に言ったとおり、ただの願掛けである。別にそこまで好きじゃあない。そう返したものの、そう真芯を捕らえられては私の反論も雑駁としたものにならざるを得ず、彼の中では既に私は大の蜘蛛好きとして分類されてしまったようであった。
 ――ねえ
 彼は思いついたように私の方を向いた。友人の目は魔性である。上目に此方を見ている黄色い瞳には不思議な奥行きがあり、中に多くの色を持っている。瞳の奥へ中心へ流れていく光彩は刻々と変化し、言葉にならぬ引力を生み出して、魅入られれば二度と戻れない妖しさがある。吸い込まれそうな瞳とはよく言うが、彼のような目のことを言うのだろう。
 ――面白いものを見せてあげようか
 ――おもしろいもの
私がそれは何かと問う前に、友人はもう校舎を出ようとしていた。




 馬を駆り、着いた先はティルコネイルの放牧地であった。まばらに放たれた羊たちを抜け、サイロの前まで馬を進めると、襤褸を纏った少年が立っていた。フォークで牧草を掻き、ちらちらと羊の方へ目を向けているから、彼がここで働いていることに疑いはない。友人は少年の元へ近づき、何事か話しかけると、少し待っていてくれと私に促して、少年と少し離れた暗がりへ入っていった。話の中身が聞こえるでもなく、無沙汰な私は狐と戯れていた。
 戻った友人は手に赤い魔符を摘んでいた。その符をどうするのかと聞いたが、友人は勿体ぶって答えてはくれなかった。目論見がわからず少年の方を見ると目があって、羊飼いはいやらしい笑みを浮かべた。磨く習慣がないのだろうか、歯が黄色がかっていた。草を燻らせる趣味でもあるのかも知れない。歯列はてらてらと脂ぎり、本来はそうでもないだろうに、彼の顔を浅ましく見せていた。

 理由を聞かされぬまま馬に乗り、友人に連れられた先はアルビダンジョンであった。アルビは放牧場から馬で走って少し位置にあり、この村に現存するダンジョン同様洞窟のようないでたちをしている。
 ――魔符を祭壇へ捧げなさい
 祭壇の前で彼は私に魔符を握らせた。この時点で私はやっと合点した。メモリアルダンジョンである。ダンジョンは名のとおりの迷宮であるが、同時に、複雑無秩序に入り組む通路の組み合わせに記憶を内包する。誰かがダンジョンのどこかで強い念を遺し、それに関わった品が手元にあるのなら、品を通してその日その場所でおきた事柄を追体験できることがある。それがメモリアルダンジョンと呼ばれる現象である。
 となれば、この魔符は誰かの思い出の品なのか。祭壇へ魔符を捧げると、瞬間、落ちるようにして私の意識は暗転していった。




 記憶の中で、私は一匹の蜘蛛になっていた。自身の姿を見ることは出来なかったが、視界に映る赤茶けた針金の如き節足と、体躯にしまわれた記憶から、今の私の有様を知ることは容易であった。
 驚くべきことに、私が間借りしたこのひと抱え程の蜘蛛虫は、人と比べて遜色ない思考を有していた。あるいは人間でも粗雑な者より遥かに人間的でさえあった。私は大いに驚き、エリンとはヒトでなくとも人足りえる地なのだと改めて認識し、この奇跡に引き合わせてくれた友人の気紛れに感謝した。
 しかし蜘蛛の体は同時に、彼の人生がいかに空虚かつ耐え難きものであったかを私に教えてくれた。およそ彼の半生において、彼と同じ土俵に立てる者は、ただの一人いや、ただの一匹たりとも現れなかったのだ。去来する記憶の中、色が白かろうと赤かろうと、彼がこれまで出会った蜘蛛どもの一切は、高度な精神性など持ち合わせず、彼とまるきり違う、我等が常日頃思うとおりの虫螻でしかなかったのだった。
 生まれてすぐ、彼は光を見た。次いで仲間を探した。しかし同じ嚢より出でたはずの兄弟達は、使う言葉は同じでも、彼ほど明晰に出来てはいなかった。彼は長く生きたが、同輩を巡り歩くうち考えることを辞めた。ついに見つからず、旅の不毛さに絶望したからである。そして漂泊の折、このアルビダンジョンへ立ち寄ったのだった。
 回想は瞬く間に終わり、その無聊さにこそ私はこの孤独な蛛形への同情をしないわけにはいかなかった。到底体躯と釣り合わぬ知性を持たされ、有無を言わさず生かされる。非凡なる者の苦悩のひと欠片を、私は知ることとなった。




 当てどなく歩く。笹が根の、身になってこそ見えるものあり。アルビダンジョンには私もよく来るが、蛛形を通して見る迷宮は広く、白いはずの壁もどこか違う色のように見えていた。道の途の分かれ道、そこには数匹の蜘蛛と、野鼠達が屯していた。突然の出会いに、私の座するこの蜘蛛は幾らかの気分の持ち上がりを見せたが、すぐに落胆した。
 ――どうせ此奴らもわからんのだろう
 そのような諦めが、すぐさま気を塞いでしまうからである。蜘蛛は諦めきっていた。一縷の望みというよりもはや確認のために、彼は蜘蛛たちに話しかけたが、やはり蜘蛛も、野鼠も、理解することはなく、意味の通らない言葉をぎちぎちと呟きながら、彷徨くだけであった。ばかりか、急に彼を警戒し襲いかかる者さえ現れる始末に、蜘蛛の心理は至って平静でなだらかであった。
 襲い掛かる蜘蛛のことは、悪漢ならぬ兇蛛とでも呼ぶべきか。とにかく、こちらを押さえつけようとする兇蛛を蜘蛛は避け、つんのめった先を後ろから突き上げて、ひっくり返してしまった。転がってしまえばなかなか起き上がれないのが甲虫の泣き所である。エリンの虫は体が大きく、相応に重い。それが災いしてか、転がる蜘蛛は、脚を大急ぎで蠢かしながらより早く回転することしかできずにいた。転がした当の蜘蛛は、その様を暫く見ていたが、どうにかなるだろうと半ば無関心にその場を後にした。追いかけてくるものはなかった。
 蜘蛛は何度となくこの様なことを繰り返してきたのか。道中、記憶を探っても、おぼろげにしか見えてこない。




 歩き回るうちに人工的な空間へ出た。ダンジョンにところどころ存在する岩壁の部屋のような空間は、当時ダンジョンがまだダナン族の要塞だったときの名残で、薄暗いが何故だか周囲を視認できる程度には明るい、という仕組みは、私にとって長い間解明されない謎の一つである。ただし、日のあたらない地下である。寒く、少し湿っている。私は蜘蛛の調子が気になったが、今のところは障り無いようであった。
 私たちが入ってきた口から見て右側の壁に吊り上げ式と思われる扉があり、中央には金属の棒のようなものが生えていた。棒の先端には赤い鉱物質の球体が付いていており、蜘蛛も私も、即座にそれがなんらかの仕掛け、あるいはそれに準ずる人工の装置であることに気がついた。
 蜘蛛はそう長くない葛藤をし、その仕掛けに触ることを決めた。ここで罠に掛かり命を落とすならそれはそれでかまわぬという大方の諦念と、もしかしてこの先に、己と会話しうる何者かがいるのではないかという一握りの期待が理由であった。
 ひとまず棒の周囲をまわって、触肢で触わり、反応が無かったので前脚でひっ掻いてみたりしたが反応がなく、勢いが足りぬかと重さをつけて叩いてみると、途端に大きな音がして、目の前の扉が開かれた。




 扉の先は棒の部屋より大きく、明るかった。後ろを玄関とするなら此方が住居と呼べるほどであったが何もなく、がらんと、ただ岩肌だけが淡く光っていた。    
 ――この広間には何も見えなかったが、遠くの壁に扉が見える。その先にまた何かあるのではないか
 蜘蛛はそう思い歩を進めようとしたそのとき、視界の端に何者かの気配が立ち昇ったかと思えば、ほとんど唐突に、そこに黒い男が立っていた。
 頭巾のついた黒い外衣に頭から身を包み、被られた頭巾の下から落ちる白い面紗に遮られ、その面貌を窺い知ることはできない。薄布に、先住民の魔符と似た文様が描かれていることから、この筒のような黒子がダナン族外の文化圏に属した存在であることは疑うべくもない。
 蜘蛛は果たして、この黒い筒がここに住んでいるのか、それとも自分と同じく旅の途中なのかをわからずにいた。私自身はその容姿からこの黒衣が何者であるかを、わずかなりにも判断できたが、彼自身はそう理由付けられるほど人間には親しんではこなかったようであった。
 黒衣の男はちょうど敷居のあたりを這う私たちを認め、ひとつ頷き近づいて、尋ねた。
 ――ほう、こんなダンジョンに蜘蛛とはな……。お前もやはり人間を避けてきたのか……?
 面紗越しに紡がれる男の言葉は低く高く、多くの言語を織りあわせたようで、幾重にも重なり、耳では理解しえないが、霊体と実体、そのどちらを通しても同じような意味として理解することができた。おそらくは魔法であろう。が、目をつけるべき社は伝達の面妖さにではなく、蜘蛛と人間、その双方に理解できたという結果にこそあった。驚くべきことに、全身黒塗りのこの男は蜘蛛と意思の疎通をとることができたのである。
 自分の言葉を理解してもらえる。事実に気づいた蜘蛛の情動はあまりに大きく、うごく事さえ出来ずにいた。感情は激流の如く荒れ狂い、私はようよう蜘蛛の体に掴まっているのが精一杯であった。
 己が生涯を賭けて願い、ついに叶わぬと諦めた大願が、今まさに叶ったのである。彼の中の見たどのような記憶さえ色褪せる。心中にあって、私は喜びに歓呼し同時にすすり泣く蜘蛛の声を聞いた。
 ややして、蜘蛛は努めてゆっくりと、男の問いに答えた。
 ――いいえ違う。俺はただ、俺の言葉をわかるものを探して、ここまで歩いてきただけだ
 蜘蛛の低い呟きに、男は少し考えた風に顎のあたりに手をやった。なにかを吟味をしているかのようであり、やがて合点がいったのか膝を折り、幾らかの質疑応答を蜘蛛へ重ねた。なぜここへ至ったのか。その足跡、行脚の押し話などを語らった。
 文化的というべきだろうか。言語を用いた意思の遣り取りは蜘蛛にとって大願ではあったが、ほとんど初めてのことであったから、はじめのうちは訥々と、ぶつ切られた単語を男に投げては返していたが、次第に慣れ、饒舌さを増し、己の生い立ちを語る段階にあってはもはや弁論家か語り部と言って何の支えもないまでになっていた。抑揚に富み、甘く、聞くもの耳にさらに聞きたいと思わせるものがあった。その上で、本来の雄弁家にありがちな、鼻につく様子のひとつもない。純粋に話を聞いてもらえることの喜び、擦れのなさ。会話における修辞の才というよりは、この矮躯に詰め込まれた膨大な才能の一角に過ぎないのであろう。黒衣も次第に耳を傾ける比重を上げ、ついには座り込み、蜘蛛の身の上話に聞き入った。

 蜘蛛は長い話を追え、今度はこちらが聞きたいことがあると、男に問うた。が、男はここで番をしているのだということしか語らず、何ゆえにこの空洞を守るのかは、聞いてもさてとかわされた。しかし男の言う番なるものの何たるかは、学足りらば白眉たるこの網生みにとって既に理解の内にあり、つまり大事な理由、あるいは第三者の命によりこの場所を守護せんとしているのだろうと、すでに当たりをつけていた。その上で、蜘蛛は出来ることならこの者と、つまり仲良くなれないかなどと考えていたのである。聡明なれど識なき蜘蛛の頭には、人型と蜘蛛が世間的にどういう関係であるかなどという事柄は遠い丘の向こうに霞むものであった。
だが失うことを既に恐れていたのである。
話がひとつ終わるころ、男は蜘蛛に問うた。
 ――女神の意思に従う存在であるならば、他の存在と同じように、お前に新しい運命を与えよう…
 間髪いれず蜘蛛は悲鳴を上げた。慟哭であった。
 ――俺の空虚な過去をみろ。何だというのだ、何の意味があるのだ。
 背を反らし、叫んだ。
 ――この運命が終わるならなんだろうと構わぬ。いや。いままでは良い。宿願は叶った。俺と話せる生き物がいるというのは夢まぼろしではなかったわけだ。話はこれからだ。俺は俺と話せる者がいることを知った。だがこれからどうすればいい。もう一度、どこにいるかもわからぬ話し相手を探せというのか。それなら同じだ。ここで貴方と別れてまたもとの生き様だ。そんなものは嫌だ。御免だ。女神がどうのこうのは知らぬ。ただ、貴方が言う他のもの達が、共に生を謳歌するともがらであるのならそうして欲しい。違うというのなら今、この場で俺を焼き捨ててくれ
 蜘蛛は頭を落とし、あとは震えた。

 あたりはしんと静まり返り、私も男もなにも語らず、暫し立ち尽くした。満ちる愁嘆が口も開かせることをさせなかったのである。おそらく男も同じ理由だったのだろう。部屋のすべてが沈み黙り込んでいた。
 無言の後、男は深く頷いて、ゆらりと腕を持ち上げた。胸のあたりで手を合わせ、指を奇怪に動かした。
 ――ターキグラナイドインチャドラマナプラウ……
 呪詞が聞こえ、その節にあわせて私は突き上げるような衝撃を感じた。同様にあたりは暗くなり、やがて意識は暗転した。




 気がつくと、先程より視界が開けている。視界は明るく、地を這うはずだった蜘蛛の目は、今となっては日ごろ私の宿る、星より来る者共の体より高くから黒い頭巾を見下ろしていた。
 先ほどは暗転と言ったが、其実、これは明転なのではないかという気持ちが私には強かった。この男の態度に蜘蛛をどうにかしてやろうといったものが見当たらなかったし、少なくともこの小さな才蜘への同情的要素を感じることが出来たからである。
 やがて蜘蛛も眼が覚めて、自身の変化に気がついた。体が大きくなっていたのである。慌てる蜘蛛に男は言った。
 ――…これでおまえの人生は変わった…おまえの存在すべき地はこの場所…。女神の意思に代わり、おまえに命じる。禁断の地へ入ろうとする者共の前に立ちはだかり、戦うのだ!
 それから男は、自分が定期的にここに寄ること、ダンジョンへ携わる自らの眷属の間で意思疎通の法が働くことなどを伝え、大間の番警の任を譲り渡した。
 蜘蛛からすれば、旅の目的が兎角でも亀毛でもなかったことが証明されたし、さらにこれからは多種多様なものたちと話すことができる。これに勝る喜びはないだろう。
 禁断の地が指すのはティルナノイのことだろうか。女神は女神モリアンをさすのか。
 とにかく、蜘蛛にとってはこの出会いこそ転句であったろうし、回想も終わりへ近づいているのではないだろうか、そう私が考えていたときである。ふいに声が聞こえた。
 ――そして蜘蛛の後ろにいるものよ
 目を剥いて声の方へ顔を下げると、あろうことか男は私を認知していた。これはどうしたことか。私は過去の追体験をしているに過ぎないのではなかったのか。狼狽える私を他所に、穏やかに男は続けた。
 ――ここはもう終わりだ
 言うや否や背のあたり、底が抜けたような感じがし、その穴へ向かって私の体は吸い込まれはじめた。抗えず、そこへそこへと落ちていく。視界は魚眼を通したかのように狭まり、あたりは暗く沈みこみながら中心の、男の顔が大きくなっていく。
 暗闇に飲まれるそのときに、顔を隠す面紗の奥に男の瞳を見た気がする。色は櫨染、光芒が幾重の層となり、ヴェールの影に輝いて。
 ――また会おう
 男の声が聞こえた気がした。

 三度の暗転の後、私はアルビダンジョンの祭壇に呆然と立っていた。後ろには友人が立っていて、
 ――良い物は見れたかい
 そう言って、笑った。

 そして今、私は旅館の部屋にいる。友人に魔符を返して一人、ティルコネイルの宿の天井を眺めている。
 あの蜘蛛はまだ生きているのだろうか。はじめは魔符が保管されているのだから既に駆虫されたとも考えたが、魔符とはただ生類を操り駆るための術符でしかない。取り外しもきけば生死に関わるものでもない。
 蜘蛛が今もあの場所で守をし続けているとして、その所縁の品が何故羊飼いの手に渡ったのか。
 ここへきて私はひとつの事柄に思い至った。
 もし、私の記憶がこうあって欲しいという妄想に歪んでいないのなら、あの目は。暗闇へ落とされる寸前に見たあの瞳は、虹彩は。あの目は、友人の目ではなかったか。彩りが束をなし、まるで自ら光を放っているような……。
 そもそもだ、何故あのような場所に男が立っていたのだ?彼はいったい、何者だったのだ。
 本当に彼は救われたのか?
 がたりと音がして、振り向くと、窓が音を鳴らしていた。







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